1.アキレスの構造
2.1種類目のアキレス腱障害:起始部の炎症
3.2種類目のアキレス腱障害:パラテノンの炎症
4.3種類目のアキレス腱障害:変性アキレス腱 (Non-insertional Tendinosis)
1.アキレスの構造
アキレス腱の周囲には腓腹筋、ヒラメ筋の足底筋があり、踵後部にあるアキレス腱の起端部から約12㎝上部で腓腹筋、ヒラメ筋と結合し、一つの太い腱を形成している。足底筋は腓腹筋とヒラメ筋の間を走る小さな筋肉で厳密にはアキレス腱の一部ではない。腓腹筋はふくらはぎの表層部分の筋肉でつま先立ちすると、浮き上がるのが腓腹筋で、膝関節の上部に端を発する。一方、ヒラメ筋は深層部の筋肉で膝関節よりも下に付いており、それ故それぞれの筋肉のストレッチや補強運動は異なる。 1コラーゲンとタイプ3コラーゲンの二種類のコラーゲンから構成されている。タイプ1コラーゲンの方が弾力性と耐久性に優れており、通常、95%はタイプ1コラーゲンによって構成されている。 90度回転して付着している。この構造こそが走動作においてアキレス腱がばねのように働く所以である。この構造は接地時に働く重力の反動をエネルギーに変換してくれる。
2.1種類目のアキレス腱障害:起始部の炎症
先述したようにアキレス腱は踵骨後部に付着するが、その付着部には滑液嚢と呼ばれる骨と腱がこすれるのを防ぐ液体の入った小さな袋がある。この箇所に炎症が起きるのが一つ目のアキレス腱障害である。腓腹筋及びヒラメ筋が固くなった状態で走り続けると、アキレス腱がより強く引っ張られた結果、この箇所に炎症が起きる。
一時的な対処策としては踵の高い靴を履くのが有効である。踵を高くすることによって腓腹筋及びヒラメ筋が弛緩するからであるが、マッサージやストレッチ、温熱療法、温冷療法によって筋肉を緩めるのが解決となる。
ストレッチは決して不快な痛みを感じるほど強く行ってはいけない。損傷個所を悪化させないように慎重に伸ばすべきである。また腓腹筋とヒラメ筋の両方をストレッチする必要があるので、ストレッチのやり方は二種類が必要となる。段差等に爪先をかけ、踵側に体重を乗せて下に下ろしていくが、その時膝を伸ばした状態と膝を曲げた状態の二種類のやり方を取り入れるべきである。
またこの箇所の炎症は単にアキレス腱と踵骨の付着部と靴の踵の部分が触れることによって引き起こされることもある。この場合、靴のかかと部分が低く、アキレス腱と踵骨の付着部に触れないものを選ぶか、若しくはカッターで踵の部分の上部3分の1を切るのが良い。
3.2種類目のアキレス腱障害:パラテノンの炎症
先述したように、アキレス腱はパラテノンと呼ばれる鞘で覆われている。この鞘に炎症が起きることがあるが、この場合診断は非常に容易である。アキレス腱と踵骨の付着部の約5㎝上部にしこりが表れるのが特徴でつまめば太くなっているのがすぐにわかると思う。この障害はオーバープロネーションの人に起こりやすく、レース用シューズを履いてのスピード練習や芝生の上でのランニングによっても引き起こされやすい。要するに踵の素早い回内動作がアキレス腱にむち打ち作用を引き起こすのである。
パラテノンの炎症にはアイシングが有効で、20分前後一日に何度も冷やすのが良い。一日に8時間氷水につけることによって完治させた例もあるが、凍傷に気をつけねばならないので、あまりお勧めはできない。
またオーバープロネーションの矯正シューズ、インソールや就寝時に踵を固定する靴やギブスを用いるのも有効である。
この炎症が起きやすい箇所であるアキレス腱と踵骨の付着部の上部3㎝から6㎝は普段から血液の供給量が少ないのであるが、過剰な回内動作によるむち打ち作用が更にその血液の供給を妨害する。したがって、この箇所の炎症を放置したり、無理をして練習を続けると、栄養が行き渡らずアキレス腱の構成要素が変わってしまい、3つ目の種類のアキレス腱障害を引き起こしかねない。
4.3種類目のアキレス腱障害:変性アキレス腱 (Non-insertional Tendinosis)
正常なアキレス腱は95%は柔軟性があり、耐久性のあるタイプ1コラーゲンによって構成されているが、パラテノンの炎症を放置していたり、無理をして同じ負荷の練習を続けると柔軟性に欠け、耐久性にも欠けるタイプ3コラーゲンの比率が高くなっていく。これがアキレス腱の痛みが慢性化した状態であり、時には数年間続くこともある。治癒過程の初期においては、繊維芽細胞(結合組織を構成する最も主要な細胞で、組織の損傷の修復に重要)はタイプ3コラーゲンしか生成しないが、治癒過程が順調に進めば、生成されるコラーゲンはタイプ1コラーゲンに変わり、繊維芽細胞の数自体も増加する。
この種類のアキレス腱障害は、段差に爪先をかけてのカーフライズが非常に有効である。故障している方の足を段差にかけて踵を浮かし、もう片方の足は宙に浮かす、その状態で母指球で押すように踵を持ち上げるのである。これを膝を伸ばした状態と曲げた状態の両方行い、15回を3セットほど行うのが良い。
この補強は非常に有効で、15人の市民ランナーを対象といたスイス人のある研究1では、15人全員に改善が見られた。この15人の平均年齢が45歳で2年間、非ステロイド系抗炎症剤、整形外科で作った矯正中敷き、理学療法がすべてうまくいかなかった後の成果であることを考慮すれば驚くべき結果である。
深部組織のマッサージも有効で傷ついた組織を破壊し、繊維芽細胞の数を増やすことで治癒過程を促進することが出来る。このことはボール大学バイオメカニクス研究所が行ったネズミを用いた実験2でも確認されている。
コルチゾン注射が有効だとする人もいるが私は次の二点の理由から反対である。
コルチゾン注射がタイプ1コラーゲンの代わりにタイプ3コラーゲンの生成を導くこと。
腱がもろくなり断裂を引き起こしやすくなること。
全てのランニング障害に言えることであるが、アキレス腱の痛みも必ずしも完全休養を必要とするわけではなく、またほとんどのケースで完全休養は復帰を遅らせるだけでなく、故障の完治を早めない。但し、アキレス腱に痛みが出た場合には、芝生の上を走らないこと、薄い靴を履かないこと、スピード練習の量を減らすか若しくは完全に中断することは必要であると私は考える。
注
Alfredson H, Pietila T, と Lorentzon : Heavy – load eccentric calf muscle training for the treatment of chronic Achilles tendinosis. American Journal of Sports Medicine 1998;26(3):360
Davidson CJ、Ganion LR、Gehlsen GMその他:Rat tendon morphological and functional changes resulting from soft tissue mobilization. Medicine & Science in Sports Medicine & Exercise 1997;29(3):313-19
参考
ティム・ノックス著『ランニング辞典』日本ランニング学会訳
Dr. Thomas Michaul 『So bekommen Sie Achillessehnenverletzungen in den Griff』 Dr. Med. Thorsten Winter、Uta Pippig編集
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