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執筆者の写真秀志 池上

高地トレーニングの重要性と効果


高地トレーニングの歴史

高地トレーニングが導入され始めたのは1968年のメキシコオリンピックがきっかけです。当初は標高2000メートルを超えるメキシコシティで開催されるオリンピックの長距離種目にける順化が目的とされていました。ところが、このメキシコシティでのトレーニングをきっかけに低地での競技能力が向上した選手が出てきました。それをきっかけに高地トレーニングを導入する選手が増え始めました。

 日本での高地トレーニングは宇佐美彰朗さんです。メキシコオリンピックに出場し9位に入って以来、その大会に向けての高地トレーニングで成果を感じその後も富士山五合目での高地トレーニングを実施したりしていました。メキシコオリンピックの二年後には2時間10分37秒という自己ベストを出しています。宇佐美さんの体験では10日間富士山五合目で練習するとその後半年は効果を実感できるそうです。

 その後はダイハツの鈴木従道監督が高地トレーニングを積極的に導入し、ダイハツの工場の一角が低酸素室になっているといううわさもありました。1990年代の話です。ダイハツ社内のでの測定装置で高地トレーニング前と高地トレーニング後での走行速度と血中乳酸濃度を比較したデータも『高所トレーニングの科学』という本の中に載っています。その数値を見ると高地トレーニング後は有意に同走行速度時の血中乳酸濃度が低下しています。当時ダイハツには浅利純子さん(2時間26分10秒)、藤村信子さん(2時間26分09秒)、吉田光代さん(2時間26分26秒)、小鴨由水さん(2時間26分26秒)らが在籍していた時代です。余談ですが、藤村信子さんは私の地元亀岡市の出身で高校生だった私に高地トレーニングの話をしたり、マラソンで活躍したければ英語が話せないとダメ(当時私は英語が一番の苦手科目でした)という話をしてくださったのは藤村さんです。

 現在ではトップアスリートで高地トレーニングを実施していない人はほとんどいないと言っても良い状況で、高地で生まれ育った人だけではなく、ヨーロッパ出身の選手達も一年間の中の大半を高地で過ごす人たちも多くいます。現在ロードレーサーたちを指導している中で最も成功しているコーチの一人であるレナト・カノーヴァ氏は高地トレーニング無しでトップに立つことは考えられないと語っているほどです。


高地トレーニングの滞在期間と効果

高地トレーニングは本当に効果があるのでしょうか?先ず大前提としてヘモグロビンや赤血球の数が増えたりサイズが大きくなったりといった生理学的な効果はあります。私自身も3か月半のケニアのイテンという標高2300mの町に滞在してトレーニングしたところヘモグロビンが17まで増えました。これ自体は競技にとってプラスの影響を及ぼします。

 しかしながら、競技結果はたった一つの生理学的要素で決まるわけではありません。私の場合、高地に滞在した直後は低地に戻っても上手く走れません。おそらく経験が浅く低地と同じようにトレーニングしているつもりでもオーバートレーニングになっているのでしょう。また、宇佐美さんが主張するような短期間の滞在に意味があるのかどうかもとても疑問です。私の経験上、3か月の滞在でも滞在期間としては不十分です。おそらく一年に3か月以上を数年間続けて徐々に適応し続けるのではないかと考えています。

 また高地に適応することと低地での競技能力の相関関係も定かではありません。昨年の福岡で優勝したソンドレ選手は高地トレーニングをとても重視しており、高校時代から何度もイテンで練習しています。去年は200日以上を高地で過ごしました。そのソンドレ選手ですら「高地に順応することと低地での競技能力の関係性は明らかではなく、俺の前のコーチの奥さんは高地トレーニングを実施して高地ではどんどん走れるようになったが、低地での競技能力は変わらなかった」と語っていました。

 私のコーチは高地トレーニングのメリットを承知しながらも、高地トレーニングは必要ではないという考えです。昔白人で初めて5000メートル12分台で走ったボブ・ケネディという選手を指導していましたが、彼が生涯で高地で練習したのは一か月ほど、しかも標高1600mくらいの高さです。また高地トレーニングに必要な標高や滞在期間に関しては、研究者の間であまりにも見解が異なります。宇佐美さんのように標高2400mの高さで10日間トレーニングしただけで効果があるとする人もいれば、コーチカノーヴァやソンドレ選手のように高地に1か月や2か月滞在したところで効果はないと主張する選手・コーチもいます。率直に言って、高地トレーニングと被験者の生理学的適応の間に普遍性のある答えを出した研究結果はまだ存在せず、全ての研究結果は対象となった被験者の間の個人差の影響を強く受けているのではないかと思います。

 高地トレーニングが生理学的な影響を与えることは間違いありません。どのようにと問われれば、インターバルトレーニングや持久走、ロングランなどと同じようにと答えるでしょう。高地トレーニングそのものは数ある変数の一つにすぎません。変数の一つが変われば全体も変わるのは間違いありませんが、どの方向に(プラスに働くかマイナスに働くか)どれだけ動くかは、その人次第です。高地トレーニングに過度の効果を期待すべきではなく、1000メートル8本にするか10本にするかというような選択肢の延長線上に同じように、どのくらいの標高にどのくらいの期間滞在するのかという選択肢が考慮されるべきだと私は考えています。

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ランニング書籍

講師紹介
​ウェルビーイング株式会社代表取締役
池上秀志

経歴

中学 京都府亀岡市立亀岡中学校

都道府県対抗男子駅伝6区区間賞 自己ベスト3km 8分51秒

 

高校 洛南高校

京都府駅伝3年連続区間賞 チームも優勝

全国高校駅伝3年連続出場 19位 11位 18位

 

大学 京都教育大学

京都インカレ10000m優勝

関西インカレ10000m優勝 ハーフマラソン優勝

西日本インカレ 5000m 2位 10000m 2位

京都選手権 10000m優勝

近畿選手権 10000m優勝

谷川真理ハーフマラソン優勝

グアムハーフマラソン優勝

上尾ハーフマラソン一般の部優勝

 

大学卒業後

実業団4社からの誘いを断り、ドイツ人コーチDieter Hogenの下でトレーニングを続ける。所属は1990年にCoach Hogen、イギリス人マネージャーのキム・マクドナルドらで立ち上げたKimbia Athletics。

 

大阪ロードレース優勝

ハイテクハーフマラソン二連覇

ももクロマニアハーフマラソン2位

グアムマラソン優勝

大阪マラソン2位

 

自己ベスト

ハーフマラソン 63分09秒

30km 1時間31分53秒

マラソン 2時間13分41秒

​ウェルビーイング株式会社副社長
らんラボ!代表
深澤 哲也

IMG_5423.JPG

経歴

中学 京都市立音羽中学校

高校 洛南高校

↓(競技引退)

大学 立命館大学(陸上はせず)

​↓

大学卒業後

一般企業に勤め、社内のランニング同好会に所属して年に数回リレーマラソンや駅伝を走るも、継続的なトレーニングはほとんどせず。

2020年、ウェルビーイング株式会社の設立をきっかけに約8年ぶりに市民ランナーとして走り始る。

感覚だけで走っていた競技者時代から一変、市民ランナーになってから学んだウェルビーイングのコンテンツでは、理論を先に理解してから体で実践する、というやり方を知る。始めは理解できるか不安を持ちつつも、驚くほど効率的に走力が伸びていくことを実感し、ランニングにおける理論の重要性を痛感。

現在は市民ランナーのランニングにおける目標達成、お悩み解決のための情報発信や、ジュニアコーチングで中学生ランナーも指導し、教え子は2年生で滋賀県の中学チャンピオンとなり、3年生では800mで全国大会にも出場。

 

実績

京都府高校駅伝区間賞

全日本琵琶湖クロカン8位入賞

高槻シティハーフマラソン

5kmの部優勝 など

~自己ベスト~

3,000m 8:42(2012)
5,000m 14:57(2012)
10,000m 32:24(2023)
ハーフマラソン 1:08:21(2024)

​マラソン 2:32:18(2024)

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