先日ある方から「量の作業から脱却するにはどうすれば良いですか?」という質問をいただきました。その方はとても頭の良い方で同志社大学を優秀な成績で卒業され、英語も含めて数か国語を流ちょうに話される多才な方なので、私が質問に回答するのも恐縮なのですが、その方はとても努力されてこられたので大変な思いをされたのだと思います。
さて、早速結論に入らせてもらいますが量の作業から脱却するにはレバレッジ効果を使えるかどうかで決まります。レバレッジ効果というのは英語でてこの原理という意味なのですが、様々な要素を掛け合わせて指数関数的に効果を出していくもののことをレバレッジが効くやレバレッジが働くというような言葉で説明されます。
これは経済で説明すると一発でわかります。多くの方は単純労働に従事されていますが、単純労働は安定している反面、レバレッジが効かないというデメリットがあります。週給40万円の人は1か月で40万円、2か月で80万円、3か月で120万円というようにy=xの正比例の曲線になります。そんなの当り前じゃないかと思われるかもしれませんが、起業家や個人事業主の収入は通常はこのようにはなりません。
映画の製作者で考えてみましょう。映画の製作費にもピンからキリまでありますが、5億円で一本の映画を撮るとしましょう。この場合、初めから5億円の赤字スタートです。この映画をたった一人の人間の為だけに作ると6億円くらいで売らないと採算が合いませんが、そんな映画は誰も買いません。これは一人の為だけに映画を作るから6億円になるのですが、2人目以降は既に存在するフィルムを回すだけなので映写機を回す電気代くらいしかかかりません。要するに、2人目以降は2人の為に作ろうが1億人の為に作ろうが、タダ同然なのです。
また、どんなヒット作品でも認知されるまでに時間がかかりますが、一旦認知され始めるとテレビ、新聞、インターネット、SNS、口コミなどであっという間に拡散するので正比例ではなく、指数関数的に広がっていきます。しかもある程度の期間映画館で上映された後はDVDで販売したりHuluで配信したりしますので、ますます権利収入が入ってきます。こうなると、もう後は何もしなくても指数関数的に収入が増えていきます。働かなくても、儲かって勝手にお金が入ってくるのです。
経済的格差というものを考える時に、正社員と派遣社員の格差にすり替える人が少なからずいますが、経済学における格差というのは常に働いている人と働いていない人の格差です。本当のお金持ちというのは仕事などする必要がありません。情報空間において、指数関数的に収入を増やしているので働く必要などないのです。実際にはこういった人たちはたいてい中毒レベルで仕事が好きな人たちなので働き続けるのですが、収入自体は労働に対する対価ではなくて権利収入を得ている人達です。
因みに経済学上のお金持ちというのは上位1%のお金持ちと下位99%の人との格差のことを指しますが、アメリカでは現在上位1%の人で富の50%近くを保有しています。日本は50%までは行きませんが、大差はありません。
本題に戻りますが、レバレッジを効かせるというのはこのような意味です。少し考えてみればわかることですが、時間は一日24時間しかないので1日8時間労働の人の倍の収入を得ようと思うと一日16時間になります。これでもこのような生活を送りたいと考える人は少数だと思いますが、3倍になるとそれだけで一日24時間になりますので、もう不可能な域です。ですが、収入は10倍、100倍の人はこの世の中にいますので、量の作業では到底無理なことが分かります。
では具体的にはどのようにレバレッジを働かせればよいのかということですが、ポイントは二つあります。1つ目は全体像をとらえるということです。これはゲシュタルトという言葉で良く説明されますが、全体は部分の総和ではないということです。別の言葉で「合成の誤謬」とも言います。要するに、部分を足したものの総和は全体にはなりませんよということです。これは語学学習で考えるとわかりやすいのですが、単語の意味をつなぎ合わせても全体の意味は分かりません。全体の意味が先にあって、それから単語の意味が決まるのです。ですので、辞書で単語の意味を一つ一つ調べていっても全体の意味は分かりません。通常学校の英語教育ではこのように教えないので、わかりにくい人もいるかと思いますので映画『メジャーリーグ』のワンシーンで解説します。
その日の試合の最終回、飛び込めば捕れたかもしれないボールに飛び込まなかったベテラン三塁手のロジャー・ドーンの家に試合後ベテランキャッチャーのジェイク・テーラーが訪れるシーンです。「どうしてあのボールに飛び込まなかったんだ?」と尋ねるジェイクにロジャーは「俺に飛び込んでほしかったと?あと数年で俺は引退だ。引退した後の人生設計もあるし、ここでケガのリスクを冒すのは馬鹿げてる」と答えます。そこでロジャーにジェイクは次のように言います。
Now listen to me. This is my last shot at winner. Only younger guys take a shot at winner. I don’t know about you. But if you ever, ever another tanked play like you did today, I’m gonna cut your nuts off and your fucking throat.
どうでしょうか?皆さん、意味がわかりますか?単語自体はどれも中学校英語レベルですが、単語が分かれば分かるという訳にはいきません。先ず、my last shot at winnerやtake a shot at winnerですが、これは「俺にとっては優勝する最後のチャンスなんだ」、「勝負にかけてるんだ」というような意味になります。いくらtakeやshotという言葉を調べてもこのような訳は出てきませんが、この映画の場面から全体の意味が先にあるので自ずと単語の意味も決まります。tanked play like you did playの部分も文章だけ見るとわかりにくいのですが、最終回に飛び込まなかったという状況が分かっていれば「今日のような怠慢プレーをすると」みたいな訳は簡単に出来ます。最後のI’m gonna cut your nuts offもいきなりこの文章だけ出されると「お前のナッツを切り取るからな」と訳したくなりますが、状況から考えて食べ物のナッツではないことは分かりますね。ここは「お前のキンタマ切り取るからな」と脅しをかけているわけです。
レバレッジをかけて語学学習を進めるとはこのようなことです。単語だけを調べるといつまでたっても正比例的にしか知識が増えませんが、文章や場面の中で語学学習をすると先に全体の意味が分かっていれば、単語の意味や使い方が分かってくるので飛躍的に学習効率が上がります。因みにtake, get, make, haveと言った単語は辞書を引いて意味を調べることはほぼ無意味です。というのもこれらの単語は状況に応じて意味が何パターンにも分かれるからです。
学校英語でもリーディングはありますが、私からすればこれだけでも不十分です。というのも高校英語までのリーディングは一冊の本の中の数ページを抜き出して読解させるからです。しかし、私からすれば本もその本一冊で一つのゲシュタルトを形成していますので、その中の数ページだけを抜き出しても意味が分かりません。要するに、全体の意味が存在しないものを読解させることなどはなっから無理なので、意味が存在しない部分のみを学習することになります。部分学習は量の勝負に突入するので徹夜で勉強する羽目になります。そして、徹夜で身につけた知識は一週間もすればどこかに消えています。それは本人の努力が足りないからではなく、人間の記憶のメカニズムとして全体でしか覚えられないようになっているからです。
今私は英語を勉強し始めて12年、ドイツ語を勉強し始めて4年になりますが、始めて4年のドイツ語は勉強し始めて10年目の英語能力くらいに到達しています。何故、10年かけて到達したレベルに英語よりも難解なドイツ語で到達できたかというと、基礎的な単語と文法を覚えた後は、ゲシュタルトから部分の意味を見出すという作業に徹してきたからです。
二つ目のポイントは「知のネットワーク化」です。これは知識を単独で覚えるのではなく、関係性で覚えましょうということです。東ドイツという概念を学ぶときに「東ドイツは第二次世界大戦後ソ連の管轄下におかれた」、「東ドイツはソ連主導の下計画経済機構を取り入れた」、「東ドイツはもともと一つのドイツという国だったものが第二次世界大戦後西と東に分断されたものである」などと様々な概念との関係性で覚えるということです。当然、「第二次世界大戦」、「ソ連」、「計画経済機構」、「ドイツ」と言った言葉が分かっているという大前提はあるのですが、それらの言葉の意味が分かるのであれば独立して覚えるよりも関係性として覚えたほうが理解が深まるということです。
過去記事の『マラソン界の洗脳』で散々書いているので詳細は割愛しますが、私はマラソントレーニングもレバレッジを効かせることで長期にわたって安定的に結果を残せると信じています。月間1000㎞走った、とか40㎞走10本やったと言ってそれを基準に練習を続けるとじゃあタイムを伸ばすには月間1500㎞とか40㎞走を15本などと言うようにどんどんエスカレートしていき、故障やオーバートレーニングのリスクがどんどん高まります。宗さんや瀬古さんが月間1200㎞走って2時間8分台で走られたのは素晴らしいことですが、レバレッジを効かせないと5分台を出すには月間1600㎞走らないといけないというふうになっていきます。そして、見逃してはいけないことは他にも月間1200㎞の練習を積んで2時間12,13分の記録しか残せなかった選手はたくさんいるということです。そういった選手は2時間11分の記録を出すために月間1500㎞走らないといけないのでしょうか?
因みに私は大学二回生の時に、既に月間1200㎞や4か月で4000㎞という練習をこなしたり、コンスタントに40㎞走を取り入れたりしても競技能力が向上しなかった段階で何かがおかしいと身をもって体感しました。このまま必死の思いで練習量を増やして、あと少し競技力が向上したところで到底金が稼げる選手にはなれないと思い至ったのです。勿論、当時も距離をこなしながら同時に他の大学生がやっていたようにインターバルや400m、800mのレペティションも取り入れていました。
これは練習の質について考える時も同じです。2012年の東京マラソンで2時間7分48秒の好記録をマークした藤原新選手はその前の練習で20㎞を59分ちょうど前後、一度は25㎞を1時間14分10秒でこなしています。それに加えて東京マラソン3週間前の丸亀ハーフマラソンで1時間01分34秒をマークしているのでたった二か月くらいの間に20㎞以上の距離をマラソン2時間3分―2時間5分前半のペースで計5本ほどこなしていることになります。
ただ、レース結果は2時間7分です。勿論、私からするととてもすごい記録なのですが、藤原さんほどの練習をこなしていない選手達が2時間5分、6分で走っているのも事実です。これもレバレッジを効かせないと、2時間5分台で走るには練習で20㎞を2分55秒ペースでやらないといけないという発想になって、どんどん自分で自分を追い詰めることになってしまいます。
勉強も仕事もマラソンもそうだと思いますが、ゲシュタルト(全体像)の下で様々な神経回路を発達させ、様々な種類の神経回路をネットワーク化させるということが大切だと思います。マラソンで言えば、42,195㎞を出来るだけ速く走る、若しくは同じスタートラインに立った選手の中で一番でゴールするというゲシュタルトは変わりません。ただ、同じゲシュタルトの下で様々な神経回路を発達させ、それらをネットワーク化させることが大切なのかなと思います。
後は全てにおいてそうですが、忍耐がなければレバレッジを効かせることは出来ません。映画の話を思いだしてほしいのですが、5億円という初期費用と撮影時間や機材、人員の用意、様々な交渉など膨大な時間、労力、金銭をかけても成果が出るまでにかなり時間がかかります。ハリウッド映画のようなビッグビジネスでさえ、始めの一年とかはマクドナルドで単純労働に従事している人の方が収入は多いはずです。
私の指導者であるコーチホーゲンのトレーニングプログラムは密度が高く、基礎練習がみっちり詰まっているので、あまり息を抜く時がありません。レースにも頻繁には出しません。走り始めてからトップランナーになるまでに15年は必要だとも言われています。常にBe patient(耐えなさい)と言われます。ケニアにあるトレーニングキャンプにはBelieve me, nothing comes easy (私を信じなさい、簡単に手に入るものは何もない)と書かれた看板がかかっています。
忍耐は必要なのですが、ロンドン、ボストン、シカゴといったメジャーレースで述べ50回も選手を勝たせているのはコーチホーゲンくらいのものです。基礎練習が多いので藤原さんや瀬古さんがされていたような特別な練習は何もないのですが、きちんとレバレッジが効くようにデザインされている証拠だと思います。
また、マネージャーとしても優秀なので、そのレースできちんと選手が自分の力を出せば、トップ3に入って賞金が稼げるようなレースにきちんと送り込んでくれます。
今回はレバレッジについて話しましたが、少し抽象度の高い話になったのでわかりにくい方もいたかと思います。そういう方には、商品情報にある「日々の生活に忙殺されているあなたへの解決策」を参考にしてみてください。60分ほどの動画の中でレバレッジという概念が具体的なビジネスモデルへと落とし込まれているので、今回の記事と合わせて視聴していただくととても分かりやすいと思います。この動画は私が作ったものではなく、私が札幌で建築会社を経営されている門別隆史さんという親しい知人を介して知った有名なインターネット起業家が作った動画です。価格は無料なのですが、とても面白い内容の動画ですので落ち着いて集中できる環境で視聴してください。
最終的にはレバレッジという概念をあなた自身の生活の中に具体的に落とし込んでいくことが大切になるのですが、その際の参考としてこんなふうに落とし込んでいるのだなと思ってもらえれば幸いです。
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