あなたはマラソン前に30kmを目標レースペースで一本できていたら本番は大丈夫、というような主張を見たことはありませんか?
もしくはあなた自身が、マラソンに向けた距離走はレースペースでやらないといけないと思い込んでいませんか?
実はそれはマラソンに向けたベストな方法とは言えません。
実際、こういう経験はありませんか?マラソンに向けて練習を積み、レースが近づいてきたタイミングで30km(ないしは35km)をほぼレースペース付近でこなす。しかし蓋を開けてみたら、レース当日はその距離走のペースで走ることもできず、30kmから大失速・・
実はこれ、距離走のペースをもう少し落として、そして本数を何本もこなすことで解決できる可能性があります。そうすることで今よりも苦しいことをしなくても良くなる上、結果が良くなるのですからそんなに良いことはないでしょう。
そして、今回はそれが可能な理由を運動生理学的観点から解説していきたいと思います
ランニングエコノミーという観点からの説明
まず、距離走のペースをレースペースから少し落としてでも何本もやった方が良い理由の一つに、ランニングエコノミーの改善が挙げられます。
ランニングエコノミーとは「ある任意の走行速度における酸素摂取量」のことです。言い換えると「その人がある任意のペースで走った時に、どれだけのエネルギー量を必要としているのか?」ということです。
具体的に言えば、サブ3目標の人が4’15”/kmペースで走った時にどれだけのエネルギー量が必要なのか?ということです。この時に必要なエネルギー量が減れば、当然4’15”/kmで走ること自体が楽になります。これは車の燃費が良くなったというのと全く同じことです。
ですので、最終的には目標とするレースペースにおけるランニングエコノミーを改善していく(必要なエネルギー量を減らしていく)ことが求められます。
ただし、基本はあるペースのランニングエコノミーが改善すれば、他のペース帯のランニングエコノミーも改善します。つまり上記の例で言えば、最終的には4’15”/kmにおけるランニングエコノミーを改善したいけれど、4’30”/kmのランニングエコノミーが改善すれば、必然的に4’15”/kmのランニングエコノミーも改善している可能性が高いということです。
つまりこの理屈からいくと、レースペースに近いペース帯(レースペース90~95%)でや距離走をやれていれば、レースペースでのランニングエコノミーもほぼ間違いなく改善されるだろうということです。
そして、そのためには反復が必要。人間の体は、一回の刺激から得られるものは多くはありません。
考えてみていただきたいのですが、仕事でもなんでも、一回言われただけで完璧に理解できる人ってどれだけいますか?少なくとも私は無理です。ですが、何度も何度も聞いていると、段々とそれが当たり前のレベルになっていきますよね。最終的には、無意識のレベルに入っていくと思います。
そう、ランニングエコノミーが目指す最終到達点は、無意識レベルでの走りの経済性をどこまで上げていけるか、なんです。そのためにはなんといっても反復です。これが、レースペースでの距離走ではなく、レースペースから少し落としたペースでの距離走を反復することを推奨する理由です。レースペースでの距離走は、負荷がどうしても高いのであまりコンスタントに反復することができないため、結局のところランニングエコノミーの改善にもあまりつながらないのです。
運動単位という観点からの説明
人間の体は、全ての運動において「運動単位」という機能によって動いています。
この仕組みとしては、脳から電気信号が送られ、それが運動神経を伝って筋繊維に届き、そこで初めて脳が意図している動きが実現します(下図参照)
この運動神経一本につき、筋繊維が300本前後ついていると言われています。これが運動単位と呼ばれるものです。
そして、この運動単位の機能は、二つの要因によって決まります。1つは筋肥大、もう1つがそもそも動員される運動単位の数が増えることです。
筋肥大については、正直長距離走やマラソンではあまり関係がない話です。全く関係ないことはないですが、長距離ランナーであまり筋肉もりもりにすることは、錘をつけて走るようなもので明らかに不利なことなので、基本的に考えることはありません。
ただ、二つ目の運動単位の動員ということについては、実は長距離走やマラソンにとって非常に重要な「筋持久力」を決める要因になります。
まず、マラソンの場合は少なくとも最大筋力からはだいぶ離れたところの出力になるので、動員される運動単位の数はそこまで多くありません。ですが、実は私たちの体は結構すごくて、体をずっと動かし続けられるようにこの運動単位を交代で使うようにできています。イメージで言えば、走っている最中に運動単位Aが疲れてきたら、自動的に運動単位Bに切り替え、それが疲れてきたら運動単位Cに切り替える、みたいなことをしているのです。
そして、ペースの速い距離走を何本もやることによって、この運動単位の交代をスムーズに切り替えられるようになります
そのおかげで、実際のマラソンレースの中でも、ある運動単位が疲れてきたらすぐさま別の運動単位に切り替えることができるようになり、最後までしっかりと体を動かし続けることができるようになります。
また、そもそも筋繊維自体も疲れにくくなるのも、筋持久力が向上する一つの要因です。
そして、それを達成するためにも結局、反復が重要です。理由は、先述したものと同様です。結局何回も何回も繰り返すことで、体が効率の良い運動単位の動員の方法を覚え、それがレースでも無意識に繰り出されるようになるのです。
代謝という観点からの説明
最後に、代謝系の観点からみていきたいと思います。
代謝というのは生体内で起こる化学反応全般のことを言います。早い話が、エネルギーを生み出す営みのことです。
そして代謝には4つのシステムがあります。クレアチンリン酸系、無気的解糖系、有気的解糖系、有気的脂肪分解系です。
我々の体は基本的には酸素を使う代謝=有気的代謝でエネルギーを作っています。
そして、マラソンに関しては特に右二つ、有気的解糖系、有気的脂肪分解系を使います。
解糖系の「糖」とはつまりグリコーゲンのことで、脂肪は呼んで字の如くです。そしてこの二つの中でも、マラソンの運動強度になると基本は有気的解糖系をガンガン使います。
ただ、グリコーゲンは体内に貯蔵できる量が多くなく、フルマラソンを走るためには不十分な量しかありません。なので、前半から有気的解糖系の代謝をバンバン回して、グリコーゲンを激しく消費してしまうと、遅かれ早かれエネルギー切れを起こします。
それを防ぐためには、前半からしっかり有気的脂肪分解系も動員して、なるべく有気的解糖系の代謝を温存できるようにしておくことが大事です。これも練習からある程度速いペース(レースペース90~95%)での距離走を何回も何回もやっておくことで、その予行演習ができます。
実際、ある程度のペースでの距離走をやり始めて最初の方は、きっとグリコーゲンがなくなっていく感覚を味わうことになります。私もそうでした。ただ、何回もやっていくと体もいい加減覚えてくるんですね。私もいつしかグリコーゲンが切れてフラフラになる感覚はほぼ感じることがなくなりました。加えて、それを温存する術を覚える。それが有気的脂肪分解系の代謝回路を早く回す術を体が覚える、ということなんです。
運動生理学的観点からみた反復の重要性
ということで今回は運動生理学的観点からみた、レースペースに近い距離走を何本も繰り返すことの重要性を解説しました。
今回解説したいずれの事象も、結局は「反復」が鍵であることがお分かりいただけたのではないでしょうか。
レースペースでの距離走は、どうしても負荷が高くなりすぎるゆえ、反復が困難になります。それであれば、レースペースから少し落とした90~95%の強度に抑えるだけでもだいぶ反復しやすくなりますし、運動生理学的な観点からみてもその方がより良い効果が得られやすいということがわかります。
なお、ランニングエコノミーという観点からみたら、最終的にはレースペースでの反復が大事であるということも言えます。その点から考えたら、距離走の最後の5kmくらいだけは、余裕があればレースペースに上げるということは全然アリだと思います。
さて今回、運動生理学の観点から距離走を考えてみましたが、いかがでしたか?
運動生理学というのはあくまで学問なので、別にそれが正しいトレーニングを導き出すことはないです。ただ、運動生理学の知識を深めると、自分のやっているトレーニングが体にどんな変化をもたらしているのか?ということを結構明確に理解することができます。
すると、練習しているけど結局何が変わったのかがわからないとか、練習の意味が感じられないということからは間違いなく解放されるでしょう。
そして、もしあなたがこの運動生理学について面白いと思われたり、また運動生理学が好きで、これからもご自身のトレーニングの方向性を裏付ける良きパートナーとしてその知識を深めていきたいと思われるなら、絶対に受講してみて欲しい講義があります。それが「長距離走・マラソンの為の運動生理学」です。
この講義では弊社代表の池上が、5時間半かけて長距離走・マラソンに関連する運動生理学を体系的かつ網羅的に徹底解説しています。
この講義を通じて運動生理学そのものの楽しさ、面白さあるいは運動生理学という視点を通して、走ることをもっと好きになって頂きたいという想いです。
本記事内に出てきたランニングエコノミー、運動単位、代謝などの言葉が分からなかった方もご安心ください。1からご理解頂けるように解説をさせて頂きます。
こちらの講義は運動生理学が好きだったり、運動生理学を死ぬほど学びたい方向けの内容になっております。運動生理学の知識をかじっている人は、特に現代はとても多いのですが、この講義では「ちょっと齧った」レベルを遥かに超えた深い説明がなされます。
具体的な内容は、以下のとおりです。
そもそも運動生理学とは何か。科学とは何か。
改めて運動生理学や科学の定義について解説をして、本講義で明らかにしたいところを明確にしたいと思います。
有酸素プロフィール
長距離走、マラソンにおける競技能力と最も関連性が高いとされている3つの運動生理学的要素について解説をさせて頂きます。
最大酸素摂取量
そもそも最大酸素摂取量とは何のために、何を目的として、何を計測している数字なのかということを解説させて頂きます。もはや最大酸素摂取量という言葉が当たり前になり過ぎてなんの疑問も抱かなくなってしまった人が多いのですが、改めてどういうものなのか解説をさせて頂きます
また、実は研究者たちは最大酸素摂取量が計測したかったわけではないのです。では、本当は何を計測したかったのか、何故最大酸素摂取量を計測するのかということも解説をさせて頂きます。
乳酸性閾値
実は乳酸性閾値と呼ばれる点は二つあります。市民ランナー界ではすっかりとジャック・ダニエルズ博士の主張する約1時間全力で走れる強度の方が乳酸性閾値ということになっていますが、必ずしもその強度が乳酸性閾値とは限りません。また、ジャック・ダニエルズ博士のいう乳酸性閾値とは別の減少で同じ「乳酸性閾値」と呼ばれる点が存在するのでそれについても解説をさせて頂きます。
ランニングエコノミー
ランニングエコノミーとは言ってみれば運動生理学的に捉えた走技術のことです。一体、運動生理学的に見た走技術とはどのようなものなのでしょうか?
運動生理学的に正しいとされる走技術とはどのようなものなのでしょうか?
最大酸素摂取量と乳酸性閾値とランニングエコノミーの関連性
木を見て森を見ずという言葉がありますが、部分だけに囚われてしまって全体像が分からなくなってしまうというのはよくあることです。そうならないように、改めて簡単に最大酸素摂取量と乳酸性閾値とランニングエコノミーの関係性について解説をさせて頂きます。
心臓
心拍数は市民ランナーの間でも、いや市民ランナーの間でこそかなり話題に上がるようになったように感じます。私が中学生、高校生の頃は心拍数を計測する時計はほとんどありませんでしたし、お金もかかるので現在でも中学生、高校生に必ずしも普及している訳ではありません。
ですが、改めて考えてみると何故心拍数を計測することに意味があるのか?
何故走力が向上すると同じペースで走っても心拍数が下がるのか?
何故非鍛錬者がトレーニングをするようになると、安静時の心拍数が下がるようになるのか?
そもそも、心臓の働きや役割とはなんであるのか?
考えてみると、よく分からないことも多々あります。こういった疑問にお答えさせて頂きます。
筋肉の中では何が起こっている?
乗用車のエンジンはそれが4気筒なのか8気筒なのかはさておき、基本的には1つだけです。一か所で生み出した動力(エネルギー)で4つの車輪が回転するように設計されています。
では、人間のエンジンは一体いくつあるのでしょうか?
答えは100兆個以上です。そう、人間の場合は心肺機能とは言いますが、心肺で生み出した動力(エネルギー)で全身を動かしているのではなく、各部分にエンジンが搭載されており、ふくらはぎで使う動力(エネルギー)はふくらはぎで、太ももで使う動力(エネルギー)は太ももで生み出しているのです。
では、その経路は一体どうなっているのでしょうか?
その経路を解説させて頂くとともに、化学式も用いて最終的に動力が生み出される過程を解説させて頂きます。
化学式は分からないという方もいらっしゃると思います。安心して下さい。講師の池上も分かりません(笑)分からないのにどうやって説明するんだと思われる方もいらっしゃるかと思いますが、完璧に分かる必要はありません。大切なのは化学式の複雑さを見ることです。
式が複雑ということは代謝に時間がかかるということです。この式の構造を見れば、何故無気的代謝は有気的代謝より速いのか、何故有気的解糖系は有気的脂肪分解系よりも速いのかということがご納得いただけます。またここに出てきた専門用語が分からない方も1から説明させて頂いていますので、ご安心ください。(科学を含む理系科目がてんでダメな私が理解できたことが一番の証拠)
筋繊維
最後に筋繊維の話をさせて頂きます。よく聞く遅筋繊維や速筋繊維というのは一体何のことなのでしょうか?
それらの性質はどのようなものであり、トレーニングによってどのような変化が起こり、走力の向上にどのような関係性があるのでしょうか?
また、これらがお分かり頂けると何故スプリンターよりも長距離ランナーの方が華奢なのか、何故専門とする距離が伸びれば伸びるほど、体の大きさが小さくなるのかがお分かり頂けると思います。
これらの内容を約5時間半にわたって体系的かつ網羅的に解説させて頂いております。
本講義を受講していただくことで
練習しても速くなっているのかどうか分からない、
練習をしても、どういうメカニズムで自分が速くなっているのか分からない
他人の情報発信を見ても、それが正しいか間違っているか分からない
ランニング関連の書籍や、直接話を聞いても、それが正しいか間違っているかが分からない
こんな悩みをたちどころに解決することができます。
また、運動生理学がわかると、トレーニングをしたら自分の体に何が起きているのか、自分のトレーニングによって何が向上しているのかが非常によくわかるようになり、単純にランニングがより楽しくなります。
これだけの内容とメリットが詰まったこちらの講義の受講価格は、22,000円(税込)とさせていただきました。
正直、ここまで徹底的に運動生理学を解説した講義は他にないと思います。運動生理学を理解したい方にとっては「決定版」の講義になります。
また、講義者は弊社代表の池上秀志です。池上のことをご存知ない方もいらっしゃるでしょうから、彼のことを簡単に紹介させていただきます。
池上は選手としては大阪マラソン日本人トップなどの実績を持つ元プロランナーで、指導者としても過去5年間で書籍や講義動画をのべ約1万人の方にご利用いただき、指導した方は10代から70代、800mからフルマラソン、様々なレベルのアマチュアランナーの方々に及びます。そしてあらゆる年代、ジャンルのランナーさんが劇的に走力を伸ばしておられます。
また、京都教育大学教育学部社会領域専攻を修了しており、中学校社会科、高校地歴公民の教員免許を取得しております。
何より彼自身、これまで洋書和書問わず数百冊以上を読み込み、運動生理学ももちろん相当な量勉強してきましたが、同時に選手としての目線も持ち合わせています。決して机上の空論ではないことは、これまで彼の半生を見てきた副社長である私が保証します。
そして、こちらの講義動画には全額返金保証制度をつけており、講義を最後まで受講して頂いた後、万が一ご満足頂けなかった場合には全額返金をさせて頂きます。
本講義のリリースは、1月17日(金)の予定です。三日間限定での販売とさせていただきますので、ぜひこの機会をお見逃しなくご受講ください!
ウェルビーイング株式会社副社長
らんラボ!代表
深澤哲也
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