「動きづくりって大事ですね」
そう語ったのは、先日私の男塾練習会にご参加くださったMさん(40代男性)とYさん(50代男性)。Mさんはフルマラソンは2時間58分の自己ベストをお持ちですが、膝を故障されてその日は本調子ではない中でのご参加でした。ですが、ご本人曰く「はじめの動き作りのおかげか、久しぶりのポイント練習にもかかわらず10km㌔3:48をそこまでキツさを感じることなく走ることができました。」というほど、その日は動きが良かったようで、私も横で途中までご一緒させていただきましたが、とても良い動きをされていました。
そしてYさんはフルマラソンは5時間26分の自己ベストで、マラソンはまだ初めて日が浅いとのことでした。その日の練習メニューは、11kmのペース走+200m×5だったのですが、Yさんは10kmのベストタイムも54分ということで、その日の練習は元々は6分〜5分30秒の間で刻むことを目標に臨まれました。ですが、蓋を開けてみたら、半分が終わる頃にはほぼ1km5分15秒前後まで上がってこられており、最後の方はほとんど5分ペースでの走りをされていました。
お二人とは練習会が終わった後にも少しお話をさせていただいていたのですが、その日の走りの動きが良かった要因について、口を揃えてこうおっしゃいました。
「走る前の動きづくりによって、本練習の走りが違った」
私の開催する男塾練習会では、毎回決まって本練習前に30分程度の動き作りを行います。これは長距離走に求められる「楽に走るための走技術」を身につけることを目的とした内容で組んでおり、そんなに労力なくできる内容かつ、筋肉や関節を温めてほぐしていき、動きの柔らかさも向上させる内容にしています。
ウォーミングアップがてら実施したその動きづくりによって、お二人ともそれだけの動きの改善を実感していただけたというのは私としてはとても嬉しいことでした。ただ、同時にこれを聞いたあなたはこうも思うのではないでしょうか?
「本当に動き作りをやった程度でそんなに走りが改善するのか?」と。
無理もありません。なぜなら、私や弊社代表の池上はこれまで幾度となく「走り方」や「走技術」については、走力を決める要素のうちの5%~10%程度しかないという話をしてきたからです。なので、私のブログを読んでくださっているということは、「走り方」についてはそこまで重要ではないというご認識をお持ちではないかと思います。
安心してください。私のその考えが急に変わったということではありません。今これを書いている真っ最中の私の考えも、以前と変わらず走技術や走り方は全体の5〜10%程度であるというままです。なぜなら、長距離走やマラソンで最も求められる要素は、素早くエネルギーを生み出すための代謝システムの向上と、最後まで脚がヘタったりつってしまうことなく走り切れるだけの筋持久力をつけることだからです。この二つの要素が高められなければ、走り方をいくら大迫傑選手と同じにしたところで、同じ結果になることは決してありません。
ですが、その5%〜10%の部分の改善が、意外に大きな影響をもたらす可能性があるということもまた事実なのです。なぜなら、走り方を改善することで生み出したエネルギーや筋持久力の「無駄遣い」を防ぐことにつながるからです。
例えばフルマラソンなら、あなたは酸素とグリコーゲン&脂肪酸を使って非常に素早くエネルギーを生み出せて、サブ3するには十分なくらいの代謝の速さはあるとします。加えて、脚の筋持久力も同様にサブ3するには十分なレベルに達しているとします。ですが、あなたは走り方がまるでウサイン・ボルトです。一歩一歩でものすごく弾んで大きく進むけれど、その分一歩での消耗がめちゃくちゃ激しい。この場合、例外なく速い段階で失速を余儀なくされるでしょう。ウサインボルトの走りは、短距離の世界では右に出る者がいないレベルですが、長距離走の世界であの動きは絶対に持ちません。つまり、せっかくサブ3するだけの体の機能は揃っているにも関わらず、あまりにも酸素消費量が多く、乳酸も抱えやすく、また脚筋力も必要としてしまう走り方のせいで、マラソンサブ3できないどころか、走り切ることすら危うくなる可能性もあります。
これは分かりやすくするためにあえて極端な例を出しましたが、こういうケースは往往にして起こりうるのです。つまり中長距離走やマラソンでは、走り方はあくまでメインにはならない。だけど、せっかく速く走れる機能を持っていても、走り方のマイナス要素が大きいと、ランニングエコノミーが低下してしまうことで、持っている機能を十分に活かすことができなくなってしまいます。
ランニングエコノミーとは、あるペースで走った時の酸素消費量のことです。つまり早い話が「燃費」です。走り方のマイナス要素が大きいというのは、車で言えばものすごく燃費が悪くなってしまっている状態なのです。こういう状態なら、走り方や走技術という5%〜10%の部分だったとしても、そこの改善にアプローチすることで伸び代は十分にあると考えることができます。
冒頭でお話しさせていただいたお二方についても、走り方が特別悪いというわけではなかったのですが、動き作りを行なったことで掴んだものがあったのでしょう。特に「重心移動」の動きを最初に掴んでいただいたおかげで、普段ならキツく感じるペースでも余裕持って淡々を刻むことができたのではないかと思います。
走技術が足りないことによる損失は、フルマラソンに限った話ではない
このブログをお読みの方はフルマラソンメインの方が多いので、フルマラソンでの例を出させていただきましたが、これは800m以降の中長距離種目前半に共通する考え方です。つまり、たとえ800mという短い距離であっても、走技術が足りないことで損をしてしまうことはあるということです。
これは実際に私がかつて経験した話です。私は中学1年生から陸上競技を始めましたが、中学に入って最初に取り組んだ距離は1500mでした。当時は中学1年生なら、4分40秒を切れば速いというレベル感だったのですが、私は中学1年の夏の時点で4分37秒で走れていました。800mは通過で2分23秒とかで行けていたと思います。これは当時京都の同学年の中でも3番目のタイムであり、私はこれをきっかけに自分の走力に自信を持つようになりました。
それから夏が明けて、初めて私は800mという種目に出場することにしました。この時の私は正直、800mという距離を舐めていました。これまで1500mをやってきていたのだから、その半分強の800mくらい最初から飛ばして行ってもいけるだろう、と。むしろ距離が短いのだから、最初から飛ばしていかないと行けないだろうと。
そういう安直な考えを持ってレースに出走した私は、最初の100mからガチガチに力み、ほぼ全力疾走で飛び出して行きました。1周目(400m)の通過は64秒。正直この時点で私はもう体は限界に近かったです。そして地獄を見るように大失速をして、同じ組の選手全員に抜き去られ、2周目は80秒近くかかって2分24秒でゴールしました。1500mの時の通過タイムよりも遅い結果となり、非常にショックを受けたことを覚えています。
これはある意味当たり前の結果なんです。というのも、距離が短いからといって、中長距離走で求められる走り方の本質は何ら変わらないからです。その本質とは「リラックスして無駄な動きをなくすこと」です。私は800mという距離を舐めてかかった結果、余計な力みや短距離的な余計な動きもいっぱい入れた走り方で臨んでしまい、後半は大失速という無惨な結果となったのです。
自分は800mとか走らないから関係ない、と思われたでしょうか?実はこれと同じようなことが、市民ランナーの中でも結構起こったりはします。フルマラソンを普段されている方が、たまに5kmレースに出場されたり、またインターバルやレペティションといったスピードワークをやった時に、スピードを出さなければと思うあまり最初からガチガチに力んで、後半にものすごく失速してしまうというパターンです。もちろん5kmくらいの距離になってくると、最初から決して楽ではない速いペースで走る必要があるのですが、その中でもうまく力を抜いてリラックスする走技術はやはり必要だということです。
むしろ、走り方を改善するということは、今サブ3に届くか届かないかギリギリの体の機能だったとしても、ランニングエコノミーが高い分そこで何とかカバーして助けてくれることになるかもしれないということです。走り方の改善とは、持っているもの以上が出るものではありませんが、持っている力を最大限発揮するためには結構不可欠なものなんです。
楽に走れる走り方を身につけるにはどうしたら良い?
では、リラックスして無駄をなくす、楽に走れる走り方を習得するためにはどうすれば良いのか?ということですが、これは「無意識のレベル」でリラックスした動きを身につけていくほかありません。ランニングというのは一歩当たりは1秒未満の短い世界です。そんな短い時間で、かつそれが数千、数万歩と繰り返される中、いちいち意識をするわけには行きません。なのでリラックスした良い動きを体に覚え込ませることが重要です。
体に動きを覚え込ませるというのは、「神経回路」を発達させるということです。体の動きの全ては、脳と体のフィードフォアとフィードバックで成り立っています。その脳と体の伝達役を担っているのが「神経」です。これが神経回路となって、体中に張り巡らされています。
私たちの体は通常、この神経回路が覚えていない動きはできません。例えばサッカーをやっていた人は歳を重ねてもサッカーっぽい動きが上手いですが、それは神経回路がサッカーで使うあのテクニシャンっぽい動きを覚えているからできるのです。元野球少年がバッティングセンターに行くと素人となんか違うのは、あのバッティングの動きを神経回路が覚えているからです。
ランニングに関しても全く同じ考え方で、走るという動きを神経回路にしっかり覚えさせていく必要があります。その時に考えていただきたいのは、ただ走るだけならすでに神経回路は動きを覚えているということです。走るという動作なんて、やったことがない人でも普通にできますよね?これは普通に生活する中での成長過程で、自然に走るという動作を体が覚え、その動きに対して無意識レベルの「OK」を出しているという状態です。
ただ、それはあくまで「一般人」としての神経回路に走る動きが組み込まれている、というだけの話です。やはり長距離走やマラソンをやるランナーとしては、もう一段洗練された動きを身につけて行きたいもの。そこで「動きづくり」というものが活躍するのです。
動きづくりというのは、簡単に言えば走るという動作を分割した動作トレーニングのことです。走る動作というのは、案外複雑な動きの集合体なのです。関節の屈曲・伸展、体の捻転、脚の外旋、内旋など、色々な動きが組み合わさってランニングの動作が完成します。これを普段無意識でやっているだけで、実はそれぞれの動きは全然最適化されていない、むしろ最適な動きを知らないということがほとんどなのです。
そこで、走るという動きを細かく分割して、しかるべき動きを部分ごとに覚えさせていく、このトレーニングが動き作りというものです。動きづくりで行う動きというのは通常、普通に生活していたらやらない動きばかりです。そして、一見ランニングとは関連がなさそうに見えるものも多いです。だからこそ、このあたりのことをきちんと理解した上でやらないと、いまいちなんでやっているのかわからないということになります。
動きづくりをやる上で絶対にやってはいけないこと
それは「意識の先を明確にしない」ということです。意識する先が決まっていない、曖昧な動き作りは最悪です。これをやるくらいならやらないほうが良いと言えるくらいです。なぜなら、曖昧な意識で動き作りをやってしまうと、むしろ余計な動きが身についてしまいかえってマイナスに作用する可能性があるからです。
動き作りは正直YouTubeやインスタで見ていても色々なものが出てきます。速く走れるようになるためのドリル、みたいな動画はたくさんあります。あのような動画でももちろん勉強はできますが、必ず意識の先を明確にする必要があります。意識の先というのは、まず一つは正しい動きを意識すること、そしてランニングに関連するイメージを持つこと、最後に、具体的に意識を送る体の部位をはっきりさせることです。
例えばですが、私はいつも練習会で動き作りをやる際には「この動きでは体のここに意識を送ってください」という風に明確に意識の先をお伝えします。何を意識してやったらいいのか?またこの動きが走りのなににつながるのかをしっかりと理解した上で行なっていただきたいからです。
動き作りは走技術の向上、走り方の改善には有効であることは間違い無いと思います。冒頭でご紹介したお二方のように、正しく動きを理解した上で行えば走りが変わった感覚を味わい、またそれがペースにも表れることも全然あります。ですが、独学で行う際には必ず「意識の先」をどこに持っていくのか?ということと、ランニングのなににつながるのか?という目的意識だけは忘れないようにしてください。
失敗しない、正しい動きづくりをして走技術を向上させたい方へ
もしあなたがこれをお読みになって、走り方の改善に取り組んでみようかなと思われたり、動きづくりを練習に取り入れてみようかなと思われたなら、それはとても良い取り組みだと思います。なぜなら、その取り組みが秋からのフルマラソンで目標タイムでいけるか、行けないかの瀬戸際の時にあなたを救ってくれることになるかもしれないからです。
繰り返しにはなりますが、基本は代謝システムの向上と筋持久力の向上です。だからこそ、例えば次のマラソンシーズンに向けて準備されている方であれば、夏からの基礎構築と秋からの特異的トレーニングで、それらの能力値を向上させておくことが必須です。ですが、それに加えて、このマラソンがない時期の間に体の神経回路がまだ知らない新たな動きを覚えさせて、よりリラックスして洗練された、無駄のない速い走りを手に入れておいていただけると、これからのマラソントレーニングもより楽に走れますし、その後のレースも楽に走れるでしょう。
その取り組みをされるにあたり、動きづくりのコーチとなるものが欲しい方、何をやったらいいのか?のガイドラインが欲しい方、また、そもそも長距離走にとっての良い走りとは?走り方が変わると何が変わるのか?ということまでもう少し深く知りたい方は、ぜひ新講義「無駄なく速い走りを身につけよう!長距離ランナーの為の走り方改善プログラム」を受講していただくことをお勧めいたします。
本講義では、ウェルビーイング株式会社副社長の深澤哲也が、長距離ランナーにとっての「良い走り方」になるために知っておくべき理論から、実際に走りを変える動き作りの実演解説まで丸ごと解説しています。
具体的な内容は以下の通りです。
はじめに
第1章:長距離ランナーにとっての「良い走り」とは?走り方の改善は何につながるのか?
第2章:長距離ランナーが動き作りをやる意義とメリットとは
第3章:動き作りを行う上での注意点と、動きづくりの使い方
第4章:実演解説・動的ストレッチ
第5章:走りのバランスを整える動きづくり
第6章:脚の引き付けを素早くする動きづくり
第7章:ストライドを自然に広げる動きづくり
第8章:重心移動を身に付ける為の動きづくり
第9章:10分でできる!忙しいあなたの為の厳選動きづくりプログラム
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それでは、あなたにご受講いただき、そして受講後に走りが変わりましたというご感想をいただけることを楽しみにしております!
よくある質問
質問:講義者は誰ですか?
回答:講義者はウェルビーイング株式会社副社長の深澤哲也です。洛南高校時代には京都府高校駅伝区間賞を獲得し、高校引退後8年のブランクを経て今は自身も市民ランナーとして真剣に走りながら、真剣なランナーさんが劇的成長する為の情報発信、メールサポート、練習会の運営などを手掛けています。自己ベストは、マラソンは2時間32分18秒、ハーフマラソンは1時間8分21秒、自身が運営するYouTubeチャンネルらんラボ!は33,000人以上の方にチャンネル登録いただいています。
質問:今回も全額返金保証はついていますか?
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質問:講義はどのような形で受講するのでしょうか?
回答:お申込み下さった方にはメールにてPDFファイルをお届けさせて頂きます。そのPDFファイルの中に講義動画の中にURLが記されておりますので、そちらをクリックしてご視聴ください。
質問:倍速再生は出来ますか?
回答:はい、出来ます。
質問:ウェルビーイング株式会社とはどのような会社ですか?
回答:ウェルビーイング株式会社は、かつてプロランナーとして大阪マラソンを日本人トップで走った池上秀志が2020年に立ち上げた会社です。
オンラインにランナーの為の日本一の学び場を作り、無料コンテンツは月間数万人の方にご利用頂き、有料コンテンツは過去3年間でのべ5000人以上の方にご利用いただき、ロンドンオリンピック男子マラソン代表の藤原新さんを筆頭に「ここでしか学べない質の高い講義」との好評価を頂いております。
ウェルビーイング株式会社のスタッフは大阪マラソン日本人トップの池上代表取締役をはじめとし、京都府高校駅伝で区間賞を獲得し、800mの滋賀県中学チャンピオンの佐藤煉君を育て上げた深澤哲也副社長、経理担当には1500mの千葉県チャンピオンでマネージャーとして名城大学女子駅伝部の二年連続全日本大学駅伝優勝を支えた早乙女晴香(現斎藤晴香)がいます。
質問:講義内で分からなかったところは深澤に質問出来ますか?
回答:はい、出来ます。お申込み下さった方にはメールアドレスをお渡しいたしますので、疑問点はいつでもご質問ください。
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