「LT」という言葉、おそらくあなたも一度は聞いたことがあるのではないでしょうか?
LTとはlactate thresholdの略で、直訳すると「乳酸の閾値」です。つまり運動生理学上において重要な指標である「乳酸性閾値」の関連でよく耳にする言葉です。
乳酸性閾値というのは、一般的にはハーフマラソンの走力向上のために重要な意味を持つと言われています。かの有名な「ジャックダニエルズ博士のランニングフォーミュラ」でも、1時間全力で走り続けることのできる強度で、また、血中乳酸濃度が指数関数的に上がり始めるポイントのことを乳酸性閾値と解説されています。
そういったところをもとに、だいたいハーフマラソンのレースペース近くの強度で走り続ける練習を「LT走」を呼び、取り組まれている方も少なくないでしょう。
ですが、実は厳密にはこのLT走という練習は存在しません。というより、LT走という練習に囚われてしまうことには、意外なリスクや、また勿体なさがあるのです。今日はそのことについて解説していきます。
乳酸性閾値とは
そもそも乳酸性閾値について全く知らないという方のために、簡単に乳酸性閾値を解説します。
乳酸性閾値とは、簡単に言えば乳酸が溜まるか溜まらないかの境目、みたいな意味です。閾値という言葉がそもそも、全か無かの法則に従うものであり、最終的には0か100かの二択になることを意味します。
では、なぜ乳酸が溜まるか溜まらないかを気にするのでしょうか?それは、乳酸が溜まることで長距離走やマラソンのパフォーマンスに大きな悪影響を及ぼすからです。
そもそも、乳酸が溜まるとはどういう状況でしょうか?少し考えてみてください。
わかりましたか?答えは、無気的代謝を使っている時です。
私たちの体には、酸素を使う代謝システム(有気的代謝)と酸素を使わない代謝システム(無気的代謝)の2種類があります。基本的には酸素を使ってエネルギーを生み出していて、それは走っている時も同じです。
ただ、有気的代謝の方が、生み出せるエネルギー量は多いけれど、エネルギーを生み出すのに少々時間がかかるのです。つまりペースが上がる(=運動強度が上がる)につれて、必要なエネルギーの量が大きくなると、段々有気的代謝だけでは必要なエネルギーを賄いきれなくなっていきます。
そうなってくると、体は有気的代謝と併用する形で代謝速度が速く、素早くエネルギーを生み出せる無気的代謝も動員し始めます。そうすることで、有気的代謝だけでは賄いきれないエネルギーを補填しています。
ただ、無気的代謝を使うことには代償があります。それが、乳酸を生成することです。
この乳酸が溜まっていくと、体内の組織が酸性化していきます。すると、代謝が不活化します。私たちの体は常に代謝によってエネルギーを生み出しているので、代謝が不活化すると生み出せるエネルギー量が減ってしまいます。その結果として、ペースダウンを余儀なくされます。
これが、乳酸がランニングのパフォーマンスを低下させる要因です。そして、その乳酸を溜め込まずに走れる強度を知るために用いられるのが、乳酸性閾値という指標なのです。
乳酸性閾値の難点
乳酸性閾値についてはざっくりとでもお分かりいただけたと思いますが、実はこれには一つ難点があります。
その難点とは、運動生理学の世界の中でも、乳酸性閾値の用語が意味するところが統一されていないということです。
最近一般的によく言われることが多いのは、ジャックダニエルズ博士の本の影響もあってか「血中乳酸濃度が指数関数的に上がり始めるポイント」のことを指す考え方です。
ですが、他の見方ももちろんあります。その見方とは「血中乳酸濃度が上がり始めるポイント」を指す考え方です。
この二つの違い、わかりますでしょうか?
ポイントは「指数関数的に」上がるのか、それともそもそも血中乳酸濃度が上がり始めるところなのか、ということです。
先ほど、乳酸が出る理由は無気的代謝を使うことだという話をしました。この無気的代謝というのは、具体的にどのペースから動員されるのかは人によって違いますし、また現代の技術ではそれをリアルタイムに計測する器具がないので、それを知ることは不可能です。
ただ一つ言えるのは、この無気的代謝と有気的代謝は、あるペースを境にパチっと切り替わるものではないということです。
つまり、まだ有気的代謝で賄い切れるけれど、ただそろそろちょっと応援が欲しいな〜、というタイミングから、体内では徐々に無気的代謝も併用されるのです。
この時点では、血中乳酸濃度は徐々に徐々に上昇し始めます。体感的な苦しさ加減で言えば、どうでしょうか。私の個人的な経験も踏まえると、中強度上限いっぱいくらいのペースがこれくらいに該当するのかなという気がしています。
そして、そこからさらにペースが上がっていくことで、そろそろ本格的に無気的代謝を動員しないとエネルギーが賄いきれない領域に入ってきます。ここが血中乳酸濃度が「指数関数的に」上昇し始めるポイントです。
ここまでの説明でお分かりいただけると思いますが、つまり運動生理学の世界で意見が割れているこの二つの見方は、それぞれ該当するペースが違うのです。
仮に血中乳酸濃度が徐々に上昇し始めるポイントを「第一乳酸性閾値」、そして指数関数的に上昇し始めるポイントを「第二乳酸性閾値」としましょう。
この時、いかなることがあっても第二乳酸性閾値のペースを、第一乳酸性閾値が上回ることはありません。どんな状況でも絶対に構図としては
第一乳酸性閾値<第二乳酸性閾値
となるのです(ついでに言うと、第二乳酸性閾値のさらに先に、最大酸素摂取量ペースがあります)
実は乳酸性閾値というのはこのように、運動生理学の世界でも用語が統一されておらず、見方によっては全然違うところを意味することになるので、それをトレーニングに適用する際には非常に注意が必要です。
LT走が存在しない理由
ここまでの説明でもうピンと来られた方も多いでしょう。つまり、乳酸性閾値というのは具体的に「ここや!」というペース帯はなく、非常に大雑把な概念なのです。
だから、LT走と一口で言っても、それが上記の説明で言うところの第一乳酸性閾値を指すものなのか、第二乳酸性閾値を指すものなのか、わからないのです。
もちろん、運動生理学はあくまで学問に過ぎないですから、運動生理学によって確立されている事実を元に推論を働かせて、それをトレーニングに応用するのが正しい使い方です。つまりこういった乳酸性閾値のことを深く理解した上で、自分はこれこれこういう狙いを持って「第一乳酸性閾値」に該当するであろうペース帯をLT走をする、という風に解釈をしても良いと思います。
要するに、いろいろなところや市民ランナー界隈でよく言われるLT走という言葉をなんとなく解釈して、なんとなくで実施し続けていると、意外と自分が本来必要な分以上の負荷を抱えることになってオーバートレーニングを引き起こしたり、またもう少し余裕度を作ってトレーニングに対してちゃんと適応できるチャンスがあったのに、適応が遅れてレースに調整が間に合わなくなるようなリスクはあると思います。
結局どう考えれば良いのか?
最終的に考えておかないといけないのは、乳酸性閾値を知ってどう活用するのか、また、そもそも乳酸性閾値をなぜ知りたいのかということです。
これは早い話が、無気的代謝を使わずに走れるレベルを上げていきたいがために、なんとなくのそのポイントの目安が欲しい、ということです。
では無気的代謝を使わずに走れるレベルを上げるにはどうすれば良いのかというと、これは一番効率的かつ楽なのは中強度の持久走を繰り返していくことです。
絶対に勘違いしてはいけないのは、乳酸性閾値を向上させようと思ったら、LT走をしないといけない、と思い込むことです。全然そんなことはありません。むしろ、一般的に言われるLT走の強度って結構高いはずなので、あまり量もこなせませんし、反復もできません。
でも、やっぱり体を変えていくのには反復と量をこなすことって不可欠なんですね。そう考えると、例え前出の説明の第二乳酸性閾値の領域まで達しなくても、中強度レベルで良いから繰り返し繰り返しやっていくことが大事なんです。
そして、これは乳酸性閾値だけに限った話ではないですが、特にこうした運動生理学的知識というものはそれに踊らされないようにするのが大事です。
多くの方が運動生理学的に正しい、などと言われてしまうと、たちまちそれを信じ込んでしまっているような印象があるのですが、実はそれはあまり根拠のあることでもないですし、また勿体ないことでもあります。
我々の体の感覚って、かなり正確に作られていますし、運動生理学はむしろ、私たちの感覚の裏付けとして使う良きパートナーくらいの付き合い方をした方がうまくいくことが多いでしょう。実際、これまでの歴史を見ても国内外問わずトップランナーやトップコーチたちは、いつも運動生理学とはそういう付き合い方をしてきています。運動生理学から導き出される正しいトレーニングというものは、ないのです。
そして、もしあなたが運動生理学が好きで、これからもご自身のトレーニングの方向性を裏付ける良きパートナーとしてその知識を深めていきたいと思われるなら、絶対に受講してみて欲しい講義があります。それが「長距離走・マラソンの為の運動生理学」です。
この講義では弊社代表の池上が、5時間半かけて長距離走・マラソンに関連する運動生理学を体系的かつ網羅的に徹底解説しています。
この講義を通じて運動生理学そのものの楽しさ、面白さあるいは運動生理学という視点を通して、走ることをもっと好きになって頂きたいという想いです。
本記事内に出てきた乳酸性閾値、有気的代謝と無気的代謝などの言葉が分からなかった方もご安心ください。1からご理解頂けるように解説をさせて頂きます。
こちらの講義は運動生理学が好きだったり、運動生理学を死ぬほど学びたい方向けの内容になっております。運動生理学の知識をかじっている人は、特に現代はとても多いのですが、この講義では「ちょっと齧った」レベルを遥かに超えた深い説明がなされます。
具体的な内容は、以下のとおりです。
そもそも運動生理学とは何か。科学とは何か。
改めて運動生理学や科学の定義について解説をして、本講義で明らかにしたいところを明確にしたいと思います。
有酸素プロフィール
長距離走、マラソンにおける競技能力と最も関連性が高いとされている3つの運動生理学的要素について解説をさせて頂きます。
最大酸素摂取量
そもそも最大酸素摂取量とは何のために、何を目的として、何を計測している数字なのかということを解説させて頂きます。もはや最大酸素摂取量という言葉が当たり前になり過ぎてなんの疑問も抱かなくなってしまった人が多いのですが、改めてどういうものなのか解説をさせて頂きます
また、実は研究者たちは最大酸素摂取量が計測したかったわけではないのです。では、本当は何を計測したかったのか、何故最大酸素摂取量を計測するのかということも解説をさせて頂きます。
乳酸性閾値
実は乳酸性閾値と呼ばれる点は二つあります。市民ランナー界ではすっかりとジャック・ダニエルズ博士の主張する約1時間全力で走れる強度の方が乳酸性閾値ということになっていますが、必ずしもその強度が乳酸性閾値とは限りません。また、ジャック・ダニエルズ博士のいう乳酸性閾値とは別の減少で同じ「乳酸性閾値」と呼ばれる点が存在するのでそれについても解説をさせて頂きます。
ランニングエコノミー
ランニングエコノミーとは言ってみれば運動生理学的に捉えた走技術のことです。一体、運動生理学的に見た走技術とはどのようなものなのでしょうか?
運動生理学的に正しいとされる走技術とはどのようなものなのでしょうか?
最大酸素摂取量と乳酸性閾値とランニングエコノミー
木を見て森を見ずという言葉がありますが、部分だけに囚われてしまって全体像が分からなくなってしまうというのはよくあることです。そうならないように、改めて簡単に最大酸素摂取量と乳酸性閾値とランニングエコノミーの関係性について解説をさせて頂きます。
心臓
心拍数は市民ランナーの間でも、いや市民ランナーの間でこそかなり話題に上がるようになったように感じます。私が中学生、高校生の頃は心拍数を計測する時計はほとんどありませんでしたし、お金もかかるので現在でも中学生、高校生に必ずしも普及している訳ではありません。
ですが、改めて考えてみると何故心拍数を計測することに意味があるのか?
何故走力が向上すると同じペースで走っても心拍数が下がるのか?
何故非鍛錬者がトレーニングをするようになると、安静時の心拍数が下がるようになるのか?
そもそも、心臓の働きや役割とはなんであるのか?
考えてみると、よく分からないことも多々あります。こういった疑問にお答えさせて頂きます。
筋肉の中では何が起こっている?
乗用車のエンジンはそれが4気筒なのか8気筒なのかはさておき、基本的には1つだけです。一か所で生み出した動力(エネルギー)で4つの車輪が回転するように設計されています。
では、人間のエンジンは一体いくつあるのでしょうか?
答えは100兆個以上です。そう、人間の場合は心肺機能とは言いますが、心肺で生み出した動力(エネルギー)で全身を動かしているのではなく、各部分にエンジンが搭載されており、ふくらはぎで使う動力(エネルギー)はふくらはぎで、太ももで使う動力(エネルギー)は太ももで生み出しているのです。
では、その経路は一体どうなっているのでしょうか?
その経路を解説させて頂くとともに、化学式も用いて最終的に動力が生み出される過程を解説させて頂きます。
化学式は分からないという方もいらっしゃると思います。安心して下さい。私も分かりません(笑)分からないのにどうやって説明するんだと思われる方もいらっしゃるかと思いますが、完璧に分かる必要はありません。大切なのは化学式の複雑さを見ることです。
式が複雑ということは代謝に時間がかかるということです。この式の構造を見れば、何故無気的代謝は有気的代謝より速いのか、何故有気的解糖系は有気的脂肪分解系よりも速いのかということがご納得いただけます。またここに出てきた専門用語が分からない方も1から説明させて頂きますので、ご安心ください。
筋繊維
最後に筋繊維の話をさせて頂きます。よく聞く遅筋繊維や速筋繊維というのは一体何のことなのでしょうか?
それらの性質はどのようなものであり、トレーニングによってどのような変化が起こり、走力の向上にどのような関係性があるのでしょうか?
また、これらがお分かり頂けると何故スプリンターよりも長距離ランナーの方が華奢なのか、何故専門とする距離が伸びれば伸びるほど、体の大きさが小さくなるのかがお分かり頂けると思います。
これらの内容を約5時間半にわたって体系的かつ網羅的に解説させて頂いております。
本講義を受講していただくことで
練習しても速くなっているのかどうか分からない、
練習をしても、どういうメカニズムで自分が速くなっているのか分からない
他人の情報発信を見ても、それが正しいか間違っているか分からない
ランニング関連の書籍や、直接話を聞いても、それが正しいか間違っているかが分からない
こんな悩みをたちどころに解決することができます。
また、運動生理学がわかると、トレーニングをしたら自分の体に何が起きているのか、自分のトレーニングによって何が向上しているのかが非常によくわかるようになり、単純にランニングがより楽しくなります。
これだけの内容とメリットが詰まったこちらの講義の受講価格は、22,000円(税込)とさせていただきました。
正直、ここまで徹底的に運動生理学を解説した講義は他にないと思います。運動生理学を理解したい方にとっては「決定版」の講義になります。
また、講義者は弊社代表の池上秀志です。池上のことをご存知ない方もいらっしゃるでしょうから、彼のことを簡単に紹介させていただきます。
池上は選手としては大阪マラソン日本人トップなどの実績を持つ元プロランナーで、指導者としても過去5年間で書籍や講義動画をのべ約1万人の方にご利用いただき、指導した方は10代から70代、800mからフルマラソン、様々なレベルのアマチュアランナーの方々に及びます。そしてあらゆる年代、ジャンルのランナーさんが劇的に走力を伸ばしておられます。
また、京都教育大学教育学部社会領域専攻を修了しており、中学校社会科、高校地歴公民の教員免許を取得しており、分かりやすく解説する力は副社長である私が保証します。
ご参考までに、選手としての実績も下記にて紹介させていただきます。彼も洋書和書問わず数百冊以上を読み込み、運動生理学ももちろん相当な量勉強してきましたが、同時に選手としての目線も持ち合わせています。決して机上の空論ではないことをお分かり頂けると思います。
中学 京都府亀岡市立亀岡中学校
都道府県対抗男子駅伝6区区間賞 自己ベスト3km 8分51秒
高校 洛南高校
京都府駅伝3年連続区間賞 チームも優勝
全国高校駅伝3年連続出場 19位 11位 18位
大学 京都教育大学
京都インカレ10000m優勝
関西インカレ10000m優勝 ハーフマラソン優勝
西日本インカレ 5000m 2位 10000m 2位
京都選手権 10000m優勝
近畿選手権 10000m優勝
谷川真理ハーフマラソン優勝
グアムハーフマラソン優勝
上尾ハーフマラソン一般の部優勝
大学卒業後
大阪ロードレース優勝
ハイテクハーフマラソン二連覇
ももクロマニアハーフマラソン2位
グアムマラソン優勝
ケアンズマラソン優勝
大阪マラソン2位
自己ベスト
ハーフマラソン 63分09秒
30km 1時間31分53秒
マラソン 2時間13分41秒
そして、こちらの講義動画には全額返金保証制度をつけており、講義を最後まで受講して頂いた後、万が一ご満足頂けなかった場合には全額返金をさせて頂きます。
本講義のリリースは、1月17日(金)です。三日間限定での販売とさせていただきますので、ぜひ引き続き情報を楽しみにお待ちください。
ウェルビーイング株式会社副社長
らんラボ!代表
深澤哲也
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